草の根プロジェクト

2023.08.09

「有効なヘイトスピーチ禁止条例策定を求めていくために」報告

8月5日に開催した草の根タウンミーティング『有効なヘイトスピーチ禁止条例策定を求めていくために』、20名を超えるご参加ありがとうございました。
佐藤大さんからとてもわかりわすいレクチャーをしていただき、今後、動いていくための礎になる会となりました。
この日は動画撮影がなかったのですが、草の根事務局のSさんが大さんのお話をまとめてくださいました。
大さんにご了解いただき、以下にアップしますのでぜひご覧ください。
(以下)佐藤大さんのお話 ↓

• 朝鮮学校へのヘイト事件をきっかけに、規制のための条例を作るために必要なことを具体的に考えたいという趣旨で2015年に会を作った。
法制化を始めようとすると、表現の⾃由の制約を盾に、保守派議員はなかなか乗り越えようとせず、ヘイトスピーチが良くないということは⾔えても、それを取り締るのは難しい。
ただ、ヘイトスピーチ解消法が出来て少なくともヘイトデモは⼤きく減ったのでその点では⼤きく評価している。

1. ヘイトスピーチについて
• 法務省3類型。侮辱(ゴキブリとか)、脅迫(殺すぞとか)、排除(⽇本から出て⾏けとか)、この「排除」が⼊ったのは評価できる。ドイツの場合はこれに「歴史否定」が⼊り、「ナチスはなかった」とか⾔えばそれも処罰対象。⽇本の法制上の限界は、ここが⼊っていない点。関東大震災の朝鮮人虐殺はなかったと⾔っても処罰対象にならない。
• ヘイトスピーチの⽬的は直接的にマイノリティを侮辱することだけではない。それよりも⼀般⼤衆にヘイトのメッセージを広め、⼤衆がそのメッセージを信じること、それを⽬的としている。この構図を理解することが重要 (⽊津川市⼈権啓発講演会にさとうさんが話している4つYoutube動画あり。)

2. ヘイトスピーチ条例について
• 全国では2都府6市区町でヘイトスピーチ条例がある(一般財団法人「地方自治研究機構」調べ)。⼀番注⽬すべきは川崎市。市議会自民党も含めて全会⼀致で可決。これが京都市でできないものか。全会⼀致で最⼤公約数でできることは何か探っていきたい。
• 京都市の当局にとって参考にしやすいのは、近隣でもある⼤阪市条例。全国⼀早かったということもあり、それだけ条例活⽤の歴史も⻑い。ヘイトスピーチ審査会を設け、すでに111回開催。その分議事録も蓄えている。審査会には憲法学者も⼊っているし、⾮常に参考になる。ヘイトスピーチと認定し、ウェブから削除し、個⼈名を公表したこともあり、判例も存在する。表現の⾃由を制限するものとして⼤阪市が訴えられたこともあったが、最⾼裁で合憲判断で⼤阪市勝訴も確定。これは各地の活動にとっても武器になる。
• 東京弁護⼠会の調べではこれ以外にももう少しありそう。 →観⾳寺市街中交流駐⾞場の設置関連条例の中で、施設において⼈種などの属性に基づき差別的扱いを助⻑する⾏為を禁⽌、使⽤禁⽌と過料も。これほどしっかり定めている例は全国でもあまりない。
• 求める会共同代表の板垣⻯太さん(同志社⼤学教員)作成の図(ピラミッド)。構造を理解するのに良い。日常生活の中の排除的な言葉では、「国⺠の税金うんぬん」というワードがフェイクでもあり外国⼈排斥にも繋がりかねない。偏⾒、先⼊観が⼀気にジェノサイドにつながることもありうるので注意。時間をかけて犯罪や虐殺につながるのではない。

3. 在⽇コリアンに対するヘイトクライム
• 2009年、朝鮮初級学校襲撃事件。最初の訴訟にも発展
• 2021年、京都国際⾼校京都府で優勝し、校歌が流れたが、その後放映したNHKや学校にヘイト電話が殺到。 • 2021年、ウトロへの放⽕。その前の7⽉には同じ⼈物が愛知の民団と韓国学校への放⽕事件。犯⼈は在特会でもなく、22歳の⻘年。ネットを⾒て誰もがこういうヘイト思想を持ち、⽕を放つことがありうる。ピラミッドの図のように、偏⾒が⼀気に極端な⾏動に出る例が既に起こってしまっている。犯⼈は5年間の服役中だが、その間に思想を変えられるか、これは現在進⾏中の問題。裁判の最終陳述で、被告は同様の事件はまた起こると、反省せず予告めいたメッセージを残した 。
• 2022年9⽉、Jーアラートで警告があった後に通学する⼦たちは駅でぶつかられたり、⾜を踏まれたり、⽇常的に差別の暴⼒かもしれない⾏為に怯えながら過ごしている。
• ヘイトクライムは⼈種に限らず、属性へのクライムなので、2016年26歳の職員が19人もの殺人を行ったやまゆり園事件も同じ。差別が安易に⽣み出される構造がある。

4. ヘイトクライム対策の現状(司法判断、ここからは希望が持てる話!)
• 徳島県、教組襲撃事件、朝鮮学校を⽀援する活動をしていた⽇本⼈⼥性が働く教職員組合事務所に複数の男⼥が押し⼊り、大声の罵詈雑⾔を浴びせ、警察も同席しながら何もせず。→⽇本⼈が朝鮮学校への⽀援をしないよう萎縮させる⽬的があったことを人種差別と裁判で認められた。
• 対在特会ヘイト裁判。個人がレイシストとまとめサイトを訴えた初の裁判。女性差別と人種差別の複合差別が認められた。 • ヘイト条例違憲裁判(前出⼤阪市勝訴)
• 対フジ住宅ヘイトハラスメント裁判:社内⽂書でのヘイトに対し訴えたが、これも差別的思想を蔓延させないようにする企業の使⽤者義務が守られていないとして損害賠償が認められる。
• ⺠団徳島⽀部脅迫事件裁判、初めてヘイトクライムという⾔葉が判決⽂に載った。これまでは「嫌悪感情」など、差別という文言さえ回避してきた。検察官は使わなかったが裁判官が踏み込み、ヘイトクライムと認め判例に⼊るようになった。 →ここまでくると後は⽴法だろう。
• 部落差別についても画期的な判決。今年6⽉28⽇、全国の被部落地名を本やインターネットに載せた出版社に対し公開差し止め請求と賠償を求める最高裁決定。判決は憲法に基づき「差別されない権利」を認定。判決⽂には10回も「不当な扱い(差別)」という⾔葉が出てくる
• ピラミッド再確認 。
ジェノサイド ↑ 偏⾒に基づく暴⼒⾏為 ↑ 差別⾏為 ↑ 偏⾒に基づく個別の⾏為 ↑ 最下層:先⼊観(バイアス)
• (どういう条例が必要か考えると)⽇本の場合は、ヘイトクライムが刑法に位置付けられていないので、判決⽂で触れられるかは裁判官しだい。社会がもう⼀度たち⽌まって考えさせるようになることが⼤事。ヘイトクライムを⾏う⼈を処罰するだけでなく社会を変えていくための項⽬が必要。加害者を更正すること、市⻑がヘイトを許さないと年1回 でも名言することなど、⽇常の先⼊観を少しでも解消していくことが⼤事。
• ヘイトクライム対策の提⾔(外国⼈⼈権法連絡会)2022年4⽉。12項⽬。提出した際、「偏⾒や差別はあるまじきこと。ヘイトクライムは犯罪」と法務⼤⾂が明⾔
①ヘイトクライム根絶宣⾔:ヘイトクライムは許されないと⾸相が明⾔するべき。ウトロの放⽕事件の時、菅首相(当時)も京都府知事も、何も発言しなかった。
②ヘイトクライム対策に関する担当部署を内閣府に設置すること ③マイノリティ当事者、専⾨家による審議会の設置
④「政府⾔論(ガバメント・スピーチ)」の重要性:①との違いは、 何かあった時にすぐ出す、模倣犯を防ぐため
⑤被害者に対する⽀援、サポート:まずは被害者へのサポート
⑥加害者に対する反差別研修プログラム
⑦現⾏法による対応、⼈種主義的動機の量刑ガイドラインの作成等
⑧法執⾏官に対する研修プログラムの策定、実施、プロジェクトチームの設置:検察官が「嫌悪感情」で済ませてしまったのがウトロ裁 判。そのためにも検察・裁判官・警察研修を
⑨ヘイトクライムの捜査、公訴の提起及び判決の状況に関する調査と公表
⑩被害者通報などの容易化の体制整備:京都でもあるが、ハードル⾼くあまり利⽤されていない
⑪ヘイトスピーチの禁⽌、制裁等: ここまできてやっと出てくる。禁⽌法令化には反対の⼈もいるから。別の⾒⽅では、ここまで⾏かなくて10項目は実行することができる。全会⼀致⽬指すなら、10項目実現にまずは照準定めるという考えもありうる。
⑫包括的な⼈種差別撤廃法の制定、救済⼿続きの設置、個⼈通報度加⼊。 今年は関東⼤震災虐殺事件100年、流言蜚語を信じた官民による虐殺に対して、「自然災害とテロの混同が現在も生じうる」という報告が、内閣府中央防災会議(2006年7⽉)でも出されている。対策を急ぐべきだ。